千葉県松戸市のマンションで2009年10月,大学4年の女性が殺害された事件。
一審は,02年に強盗致傷事件で懲役7年の判決を受けて服役し,出所から3か月足らずで強盗致傷や強盗強姦などの事件を繰り返した点を重視し,「反社会性は顕著で根深く,1人殺害でも死刑が相当」とした。
二審(東京高裁平成25年10月8日)では,部屋への侵入は物とり目的だったとし,計画的な殺害ではないとした。また,強盗殺人の前後の各事件は法定刑からして死刑はありえず,今回の事件で被告を死刑とすべき特段の要素にはならない」被害者1名で殺害の計画性がない同種事件では過去に死刑がなく,死刑の選択がやむを得ないとは言えないと判断。一審を破棄して無期懲役を言い渡した。
最高裁は「刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,…その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。」とし,「死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があ」るとした。
その上で,本件については,「松戸事件が被害女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界がある事案であるのに,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等を強調して死刑を言い渡した第1審判決は,本件において,死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとはいえない。第1審判決を破棄して無期懲役に処した原判決は,第1審判決の前記判断が合理的ではなく,本件では,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断したものと解されるのであって,その結論は当審も是認することができる。」とした。