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判例等

 

刑事事件判例&知識集

刑事事件判例&知識集
 
裁判員死刑判決を破棄して無期懲役としたことを支持した決定(最高裁平成27年2月3日)
千葉県松戸市のマンションで2009年10月,大学4年の女性が殺害された事件。
 
 一審は,02年に強盗致傷事件で懲役7年の判決を受けて服役し,出所から3か月足らずで強盗致傷や強盗強姦などの事件を繰り返した点を重視し,「反社会性は顕著で根深く,1人殺害でも死刑が相当」とした。
 
 二審(東京高裁平成25年10月8日)では,部屋への侵入は物とり目的だったとし,計画的な殺害ではないとした。また,強盗殺人の前後の各事件は法定刑からして死刑はありえず,今回の事件で被告を死刑とすべき特段の要素にはならない」被害者1名で殺害の計画性がない同種事件では過去に死刑がなく,死刑の選択がやむを得ないとは言えないと判断。一審を破棄して無期懲役を言い渡した。
 
 最高裁は「刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,…その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。」とし,「死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があ」るとした。
 その上で,本件については,「松戸事件が被害女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界がある事案であるのに,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等を強調して死刑を言い渡した第1審判決は,本件において,死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとはいえない。第1審判決を破棄して無期懲役に処した原判決は,第1審判決の前記判断が合理的ではなく,本件では,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断したものと解されるのであって,その結論は当審も是認することができる。」とした。
 
秋葉原殺傷事件において最高裁でも死刑判決を維持した判決(最高裁平成27年2月2日)
東京,秋葉原で平成20年に7人が死亡し,10人がけがをした無差別殺傷事件。
(トラックで5人を殺傷,ナイフで12人を殺傷)
最高裁判所第1小法廷(桜井龍子裁判長)は,1審死刑,2審の控訴棄却判決を支持し,上告棄却とした。
「周到な準備,強固な殺意,残虐な態様で敢行された無差別事件で,責任は極めて重大」
「社会に与えた衝撃は大きく,遺族らの処罰感情も峻烈だ」とした。
 
警察が無断でGPS発信機を付けたことが重大な違法とされた事例(最大平成29年3月15日判決)
 被告人と共犯者3名が深夜の時間帯に盗難車両と盗難ナンバープレートを使用して,店舗荒らしを繰り返した窃盗事件において,大阪府警は捜査において,約7か月にわたって,犯人らの使用車両19台にGPS端末を取り付け,位置情報を取得しながら監視追尾したことについて,違法と主張した。
 一審では,本件GPS捜査はプライバシーを大きく侵害するため強制捜査であり,令状なく行われた本件GPS捜査は令状主義を没却するような重大な違法があるとして,本件GPS捜査によって直接得られた証拠及び密接に関連する証拠の証拠能力を否定した。もっとも,証拠排除されなかった供述証拠等に基づき,被告人には有罪判決が下された。
 控訴審では,GPSによって得られる情報は,対象車両の所在位置に限られ,車両使用者の行動の状況などが明らかになることは無く,また警察官らが,相当期間に渡り機械的に各車両の位置情報を間断なく取得してこれを備蓄し,過去の移動情報を網羅的に把握していたという事実も認められないなど,プライバシー侵害の程度は必ずしも大きいものではなかったとして,本件GPS捜査に重大な違法があるとは認められないと判断し,判断を覆したものの,結論に影響せず控訴棄却した。
 最高裁では,憲法35条の保護対象には,住居,書類及び所持品に限らず「これらに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれる」とした上で,「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」として,強制処分に当たるとした。
 さらに,大法廷判決は,GPS捜査について刑訴法197条1項ただし書が規定する令状を発布する事には疑義があるとし,GPS捜査が今後も広く用いられうる有力な捜査手法であるとすれば,憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましいとの判断を示した。
 結果として,原審(控訴審)の違法が重大でないとした判断は是認できないとし,違法の重大性は肯定して,本件GPS捜査によって直接得られた証拠及び密接に関連する証拠の証拠能力を否定するものの,証拠排除されなかった供述証拠等に基づき,被告人には有罪判決が下された第一審判決を相当とした。
(私見・感想)
 GPSは直接対象者の映像を映し出すものではなく,単に位置情報を得ることができるに過ぎない。
しかし,位置情報が自分のコアに触れることもある。本件とは異なる例ではあるが,不妊治療のために専門の治療施設に通っていることや,LGBTが集う飲食店に出入りしているといったことは,その事実自体が自己の人格に直接かかわるものであり,それを他人に知られたくないとの思いは一層強いのが通常である。このように,位置情報が単なる外面的情報を超えて,自己の人格を推知させうるものであることに配慮すると,GPS捜査は強制処分に当たるとした最高裁の考えは相当であると考えられる。怪しい人間であればどのような捜査も受け入れるべきだとの考えは,人権を軽視するものであり,容認できない。
(参考書籍)自由と正義 Vol68の8頁に弁護を担当した亀石倫子弁護士の報告の記載がある。
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