【事案の概要】 ※判例時報2471号49頁
被害者(当時4歳)は,道路を横断中に,大型貨物自動車に衝突される交通事故に遭い,高次脳機能障害の後遺障害が残り,労働能力を全部喪失した。
【争点と背景】
従来,後遺障害逸失利益については,将来に得られるべきであった収入額を,中間利息(旧民法5%。現民法3%)控除をした金額により,一時金として一括で賠償を求めることが一般的であった。
これに対し,被害者は,後遺障害逸失利益を定期金(将来に渡って定期的に支払うお金)として支払うよう求めた。
過去の下級審判例には定期金賠償を認めたものもあったが,最高裁判例は存在しなかった。
1審,原審ともに,定期金としての支払いを認めた。
【裁判所の判断】(結論は肯定)
一般論 後遺障害による逸失利益について不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときは,定期金による賠償の対象となる。
具体的判断 被害者は,本件事故当時4歳の幼児で,高次脳機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというのであり,同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえるとして,相当とした。
【さいごに】
⑴ 定期金賠償を認める要件「不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当」は,抽象的である。どのような場合にこの要件を満たすのかは,今後,事案の積み重ねによって具体化されることになるだろう。
⑵ 本判決は,仮に将来,被害者が死亡した場合について,「…などの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない」とも判示しているので,若くして亡くなってしまったとしても,受給権を失うと考える必要はない。
⑶ 定期金賠償は,中間利息控除がないので,受領総額が多くなるという利点がある。
⑷ もっとも,弁護士の立場からすると,定期金で受領することになった場合には報酬をもらいにくいという問題がある。